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Archive for the ‘Stats’ Category

[NBA] プレイの質の数値化と新たなプロダクトの提供 – SportVU Motion Trackingの導入

NBAの試合は観戦する人々に興奮と感動を与えるものだが、一方でStats(試合記録)という副産物をもたらす。

Statsについては当ブログの「もしファンがマネーボールを楽しめたら   NBAとソフトウェア大手SAPのマネーボール的提携」という記事の中でSAPの力を借りてStats(Advanced Stats含む)をファンにどのように提供してきたか書いた。

NBAは次のシーズンで全試合にMotion Trackingを導入することに決定した。(下記がNBAの公式プレスリリース)

NBA partners with Stats LLC for tracking technology

STATS LLCというアメリカのスポーツデータ分析の最先端の会社のSportsVUという仕組みを導入する。各アリーナに6台のカメラを設置し、全ての選手の動きを追跡する。取得したデータはNBA Game Time(スマートフォン向けアプリ)、NBA.com、NBA.tvで利用される。

■SportsVUが提供するもの – 選手やボールの動きをわかりやすくするイメージを動画にかぶせる

ただSportsVUで提供されるデータがどのようなものかという点については以下のブログが詳しい。

SPORTVU ADDS TO THE CONVERSATION

記事中では例としてデータを利用した4つの動画が挙げられている。

  1. Kevin DurantとKawhi Leonardの距離の動きを追ったもの
  2. Knicksの攻撃時にHeatのディフェンスの陣形の変化
  3. Kevin DurantがGinobiliからスティールしたディフェンスにおいてKawhi Leonardとどれだけの距離を取っていたか
  4. 3.と同じ攻撃でのThunderのディフェンスの陣形の変化

つまりSportVUの行っていることは動画に対してファンやライターが見たいと思う距離や陣形やその他もろもろのイメージ(レイヤー)を追加していることになる。

■SportsVUが提供するもの – プレイの文脈情報

また記事の後半の例には、これまでのStats(Advanced Stats含む)では語りきれなかった各プレイの文脈(Context)についても情報を得ることができると書いてある。

・アシスト

これまではアシストといえばアシスト数、アシスト%(チームのシュートの何%をアシストしたか)、アシストRatio(100回のポゼッションで何回アシストしたか)、AST/TO Ratioなどが指標として用いられてきた。

ただこれまでのアシストはパスからシュートが入った場合のみをカウントしていて、シュートミスとなった場合やフリースローになった場合、また他のプレイヤーのアシストにつながった場合はカウントしていない。SportsVUではそれらをとらえることができる。Rajon Rondoは1試合あたり1.4本フリースローにつながるパス(“free throw assists”)を出している。Tony Parkerはアシストにつながるパス(”Secondary Assists”)を1試合あたり2本出している。(ちなみにSecondary Assistsが一番多いのはKirk Hinrichで2.9本/試合) またパスの後のシュートがWide Openだったかチェックにあったか、という観点でも数字をとることができる。

・ディフェンス

ディフェンスは数字化しにくいもので、一般的にはその選手がコートにいる場合の100ポゼッションあたりの失点が指標として使われる。Kevin Garnettがコートにいると8.4点/100ポゼッション失点が少ない。非常にKevin Garnettはピックアンドロールに対するディフェンスがうまい選手として知られているが選手との距離の取り方などを見ることでその理由を解明できるかもしれない。

・リバウンド

リバウンドについてはrebounding percentage(コートに出ているときのリバウンドの何%を取ったか)が指標として挙げられ、この点ではReggie Evansがトップである。(ちなみにReggie Evansのように黙々と仕事をこなす選手が筆者は好きである) ただしコート上に出ていても自分とリングの反対側にボールが落ちるなどリバウンドを取れないこともある。自分のほうに落ちたボールをリバウンドチャンスととらえると、そのチャンスのうちどれだけのリバウンドを取ったかという数字のほうが実質的な意味がある。この点ではBrook Ropezがトップとなる。またBrook Ropezがリバウンドの際にどれだけ移動しているかという数字も取れる。(Brook Ropezは6.4ft = 190cm程度)

・Usage

またUsageといって攻撃がそのプレイヤーで終わった回数が何回あったかという指標がある。UsageではCarmelo Anthonyが当然トップなのだが、実はKnicksの攻撃においてはAnthonyよりもRaymond Feltonのほうが長い時間ボールを持っている。(Anthonyは3分28秒/Game、Feltonは5分51秒/Game)

ざざっと記事中で紹介されていたものについて触れたが最後のまとめに以下のようにある。

「全ての数字は何らかの文脈の中で行われている、情報が取れればよりよい議論ができる。トラッキングされているものは数値化できる」

No single stat or number exists that’s going to tell you all you need to know about a player. Everything must be taken in context and the more information you have, the better argument you can make. Well, SportVU is a lot of information.
All of the above is just the tip of the iceberg. If it can be tracked, it can be quantified.

■プレーの質の数値化と新たなプロダクト

これまでのStatsと今回のSportsVUのMotion Trackingによって取得できる情報の違いは、これまでのStatsがプレーの結果(数値)しか取れなかったのに対して、それぞれのプレーの質についての情報を取ることができるようになることだと思う。記事中では文脈と表現しているが、文脈を踏まえたうえでの数字の結果や文脈自体を情報として提供できるようになることで、これまでのスタッツでは評価されなかった選手が評価されたり、プレーの分析が進んだりすることだろう。

ビジネス的な観点でいうと、今回のSportsVUによってNBAは新たなプロダクト(生産物、商品)を手にしたといえるだろう。これまでは何となく理解はされていたけど見過ごされていたプレーの文脈情報を、Motion Trackingの情報としてパッケージして届けることができるようになった。SAPと提携してStatsをstats.nba.comで提供し始めたときもそうだが、新たなプロダクトを届けやすいかたちでパッケージする能力、これこそがNBAが持っているもう一つの強みなのではないかと、この記事を読んで思いを新たにした。

[NBA] もしファンがマネーボールを楽しめたら – NBAとソフトウェア大手SAPのマネーボール的提携

■バスケットボールは数字のスポーツ?

バスケットボールは数字のスポーツだ。

24秒ルール(24秒以内にシュートを打たなければいけない)のため、両チームに平等に攻撃機会が回ってくる。その攻撃の機会をどのくらい得点につなげるか(フィールドゴール(FG)%=シュートの確率)、相手の攻撃をどれだけ防ぐか(ディフェンス・リバウンド、ブロック)、自分たちの攻撃の機会をどれくらい増やすか(オフェンス・リバウンド、スティールなどでターンオーバーを誘う)、攻撃機会のロスをどれだけ減らせるか(自チームのターンオーバーを減らす)という要素の組み合わせでゲームはできている。
そういう意味ではサッカーよりも野球に似ている。

そんなことを学んだのは以下の本から。バスケットボールにおけるマネーボール的分析の最初だと思われる。個人スタッツ(Stats:数字)だけでなくチームスタッツについても触れているが、まず最初に書かれているのは「バスケットボールはどういうゲームか?」ということだった。
Basketball On Paper: Rules And Tools For Performance Analysis

もちろんエキサイティングでスピードとパワーにあふれるプレーを見るのは好きな人が多いが、上記のような数字の側面について語るのが好きな人もいるはずだ。(筆者も例にもれずNBA.comでboxscoreが公開されるようになったころから、数字を眺めてゲームの内容を想像するのが好きだった)

■もしファンが自分で数字を分析してマネーボールを楽しめたら?

そんな筆者のようなファンにNBAのスカウトが使うようなStatsの分析ツールが無料で公開されたら?それを実現したのがNBAとSAPの提携だった。

New service is stats heaven for fans (SportsBusiness.comより)

【事例】NBA、「SAP HANA」を使って新スタッツ・ページを開設 – 深いデータをファンに初公開 (COMPUTERWORLDより)

NBAはソフトウェアパッケージ大手のSAPと提携し、ファンが自分で自由に試合の分析データを見ることができるプラットフォームである、stats.nba.com をリリースした。

NBA Stats

このプラットフォームでは基本的なboxscore(得点、シュート本数・成功率、リバウンド、アシスト、ブロック、スティール、ターンオーバー)だけでなく、advanced statsと呼ばれる攻撃100回あたりの得点・失点、リバウンドの機会のうちどれだけを確保しているか、クラッチタイム(試合残り5分間で5点差以内)のパフォーマンスなど、boxscoreだけでは分析できない数字まで提供している。

■NBAにとってのメリット

NBAにとってのメリットは、プレイだけでなく数字が好きなファン層(おそらく試合を観戦するだけのファンとは違う層)を取り込めること、そしてじっくり見るので結果的にNBA.comサイトへの滞在時間が延びること、オフシーズンでも楽しめることがあげられる。
これらは全てNBAのメディアとしての価値を押し上げる。

またSAPは世界的にトップ企業(Fortune 500企業のうち85%)を顧客にしており、世界では”The Best-Run Businesses Run SAP”というキャッチコピーでそれをアピールしている。
NBAもそのトップ企業(組織)の一部であるという宣言でもありブランド価値の向上に大きく寄与したはず。

■SAPにとってのメリット

SAPにとってもこれは渡りに船の機会だった。

SAPはちょうど去年の初めにHANAというインメモリの高速データベースを自社開発し発表していた。
Advanced Statsは高度で膨大な計算処理を必要とする。また消費者向けBtoCサイトでもあるため、それほど悠長にはファンも待ってくれないため高速な結果表示が求められる。

チャレンジングではあるが、ビッグデータという言葉が流行し、大量データ分析が必要になっていく時代の中で、HANAの力量を示すにはまたとない絶好の機会だったといえる。

■(例によって)コンテンツを最大限に生かす仕組み

NBA Statsのリリース以降、NBAは使い方の説明ページの作成、直近迫ったオールスターの選手をStatsを使って分析する記事の作成、Stats専用のTwitterアカウントによる毎日の#StatLineOfTheNightの配信および試合前のStatsによる予測等を行っている。

使い方ページ – Welcome to NBA.com/Stats

NBA.comでいつも記事を書いているライターによるオールスター選手の分析 – Eastern Conference All-Stars By the Numbers

NBA.com/StatsのTwitterアカウント(毎日配信)

コンテンツであるNBA.com/Statsをアピールし抜け目なく活用するあたりは、前の記事([NBA]AwardとAwardスポンサーのモデルについて)でも書いたようにコンテンツにレバレッジをかけていくというアプローチといえるだろう。